2021年09月15日

成年後見(その2)

 裁判所の公表資料(成年後見関係事件の概況、令和2年1月~12月)のうち、裁判所に選任された後見人(保佐人、補助人を含みます)と本人との関係をみると、子、配偶者をはじめとする親族である割合は全体の2割程度にすぎず、約8割は親族以外の人となっていて、その内訳は多い順に、司法書士、弁護士、社会福祉士、社会福祉協議会、その他となっています。

 これをみると、ほとんどのケースで成年後見開始の申立をした人からすると、全く予想もしていなかった親族以外の人が後見人に選任されているかのような印象を受けるかもしれませんが必ずしもそうとは言えないと思います。
 というのも、申立にあたっては、後見人等候補者を記載して申立をするのですが、親族が候補者として記載されている事件は全体の約23%ということですから、大体は希望どおりの親族候補者が後見人に選任されていると推測できるからです(成年後見人等の候補者については令和2年2月から調査を開始したということです)。
 また、司法書士等の親族以外の人を候補者として申立をした場合も、多くはそのまま候補者が後見人に選任されているのではないかと思われます。

 ただ、親族が候補者として記載されている事件は全体の約23%ということからすると、一般の方には後見人は荷が重くハードルが高い職務と認識されているのだと思います。
 実際、後見人は1年に1回、本人の財産状況や事務状況を裁判所に書面で報告しなければなりませんし、本人の財産を適切に維持管理する義務を負うため、負担感はあると思います。
 この点も、制度が普及しない理由の一つと思います。






urushihara_law at 16:30|PermalinkComments(0)弁護士業務 

2021年08月27日

脊梁

 難しい言葉のタイトルで「せきりょう」と読み、背ぼね、分水嶺となる山脈といった意味のようです。清張さんは、山脈の脊梁といった表現で他の作品中でも使用されています。 昭和38年の作品。

 強盗殺人罪で逮捕起訴された被告人について、一審、二審とも死刑判決となるも、上告して最高裁で破棄差戻しとなって、差戻し審で裁判継続中であり、10年近い月日が流れ、その元婚約者とその家族にも塁を及ぼすというストーリーです。

 この作品には2人の私選弁護人が登場します。無実の人を誤って有罪とすることがあってはならないと活動して、最高裁で破棄差戻しされたくらいですからそれなりの弁護活動をしているはずですが、あまり重点は置かれておらず、元婚約者の心理状態や生活状況に主眼が置かれています。
 タイトルも元婚約者の証言が有罪無罪を分けるものという意味で付けられたようです。
 弁護士は、むしろ元婚約者の両親からは、自分たちの思いと弁護士の考えにすれ違いがあると思われたり、自分の名前を世間に広めようという気持ちがあってその手柄のために活動していると思われてしまいます。

 重大事件で無罪を主張して裁判は長期に及び、新聞、雑誌などにも注目される有名な事件となっていますから、被告人側関係者の生活状況に大きな影響を及ぼしてしまうことは避けられないと思います。
 今の制度ですと、裁判員裁判になる事件と思われるため、裁判の長期化はある程度回避できるかもしれませんが、ネットなどで中傷されたり、社会的制裁を受けたりすることはより顕著となっているので生活状況に与える悪影響はより深刻なものになっていると思われます。





urushihara_law at 16:45|PermalinkComments(0)松本清張 

2021年07月27日

一年半待て

 夫殺しの殺人罪で起訴されたヒロインについて、婦人評論家の熱心な支援活動もあって、懲役3年、執行猶予2年の有罪判決がなされるのですが、実は・・・という昭和32年の短編裁判小説です。

 宮部みゆきさんが責任編集されている松本清張傑作短編コレクション上巻(文春文庫)の中で、「特に好きな作品」で、「名作中の名作。これを読まずしてミステリを語るまじ。」とコメントされているほどですので、弁護士は登場しないですが、ここに載せることにしました。

 清張さん自身は、法律の本を読んでいて、一事不再理という条文を見つけてそれをヒントに作品を書いたと言っています(黒い手帳)。

 一事不再理というのは、有罪・無罪の確定判決があった事件については、再度の公訴提起、審理を許さないという刑事裁判の基本原則ですが、それは憲法上の保障でもあります(憲法39条)。

 先の宮部さんによれば、「これをテーマとしたミステリの秀作佳作は他にもありますが、これはまさしく嚆矢。」ということです。
 昭和32年当時に法律書を読んで、それをヒントにこういう作品を書いてしまうところがこの作家の凄いところです。

 ただ、一言すれば、実際に執行猶予を狙って殺人を計画して実行する人が果たしているのかなという気はいたします。

urushihara_law at 17:52|PermalinkComments(0)松本清張