2020年09月02日

霧の旗

 強盗殺人罪で逮捕、起訴された被告人について、その無実を信じる被告人の妹(桐子)からの弁護の依頼を断った刑事弁護の著名な弁護士(大塚弁護士)が、後にその妹に復讐され破滅に追い込まれるというストーリーです(昭和34年)。
 何度もテレビドラマ化されているようで、かつて田村高廣さんが大塚弁護士役で出ていたのを見て怖い話だと記憶に残っていました。ネットで調べてみると1991年のオンエアだったので、弁護士登録1年目の新人の時に見ていたことになります。

 あらためて作品を読んでみますと、失礼ながら、弁護の依頼を断ったことと復讐、破滅との結末がかなり無理な筋立てではないかと思いました。
 桐子が兄の獄死後上京し、その後、女給(この表現は時代を感じさせます)として働いていたバーでの雑誌記者との再会、後に殺害されるレストランのボーイ頭との出会い、殺害現場への立会いとそこでの大塚の愛人との鉢合わせ、その愛人が兄と同じような刑事被告人の立場に立たされてしまうこと等が小説としてもあまりに偶然に過ぎると思われるのです。
この点、文芸評論家の斎藤美奈子さんが、文庫解説ワンダーランド(岩波新書)という本で、そもそも松本清張作品は、トリックは無理筋だし、動機は憶測にすぎないし、などと批判的な指摘をしているのですが、なるほどここはその通りではないかと思った次第です。

 大塚弁護士の刑事弁護活動としては、ライター提出にこだわり過ぎたのではないかと思います。真犯人の目星はついたと言っているのですから、これを検事か裁判所に丁寧に上申すればライターがなくても何とかできたのではないかと思われます。
なお、桐子の兄を担当した国選弁護人は、無罪の弁護をせずに、情状酌量だけを懇請したとあるのですが、そのような弁護士はいないと思いますし、もしいたとすると相当問題ある弁護士だと思います。国選弁護人であっても被告人の主張に基づいて最善の弁護活動をするはずです。

 大塚弁護士は52歳の設定になっています。
 ドラマと原作は違うことやドラマを見た当時は自分が弁護士1年目で52歳の弁護士は大先輩であったのに対し、今では、年を重ねて52歳がはるか下になったことからこのようにやや批判的な感想、コメントになったのかもしれません。





urushihara_law at 17:17|PermalinkComments(0)松本清張 

2020年08月26日

はじめに

 松本清張作品に惹かれるようになったきっかけは2018年3月にNHKのEテレで放送された「100分で名著」という番組で取り上げられたのを見たことです。
 高校生の頃、「点と線」を読んだことがありましたが、当時は刑事のアリバイ崩しの執念に感心した程度だったと思います。案内の原武史教授の解説によって、それだけではないことがわかり、何十年ぶりかで読んでみるとなるほど色々と深い作品であることがわかりました。
 それから他の作品も読んでみようと思いました。どなたかの解説に、清張作品を楽しむためにはある程度の社会経験が必要なのだと思うという意味のコメントがありましたが、なるほどそのとおりだろうと思います。

 松本清張は下積みともいうべき生活が長く作家デビューが41歳と遅かったことは、司法試験合格まで長くかかった自分としては親近感を持ちましたが、その後の猛烈ともいえる仕事ぶりや生涯作家界の先頭を走り続けたことには圧倒され、敬服するばかりです。
 藤井康栄さんの「松本清張の残像」(文春新書)によれば、例えば、「今、松本清張記念館で見られる三万冊の蔵書は、あくまで帰らぬ人となった時点で身辺に置いていたものである。」というのがありますが、それだけでも人並外れていることがうかがえます。また、「仕事の話の最中に、たまたま何かの文学作品のディテールに入っていくときの博覧強記ぶりは、多くの編集者の知るところである。」といった記載もあって松本清張の人物や凄さがわかります。

 清張作品にはときどき弁護士も登場します。
 まだまだ出合った作品は少ないですが、ここではいくらかでも仕事との関連ということで、主に弁護士が出てくる作品について感じたことなどを書いていきたいと思います。











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