2020年09月

2020年09月09日

種族同盟

 弁護士の私が、引き受けた強盗・強姦・殺人事件の国選弁護事件で被告人に無罪判決を得るのですが、後にその被告人から実は真犯人であったことを告げられ、脅かされるなどして破滅に追い込まれるという誠に気の毒な短編作品です(昭和42年)。
 
 しかしながら、被告人には無罪の推定原則があって、有罪の立証責任は検察官の側にある(刑事訴訟法336条)のですから、真犯人を有罪とできなかったのであれば、それは検察側の責任であり、弁護人の責任や問題ではないはずです。
 被告人が真実に反して事実を争っている場合、弁護人は真実を明らかにしてよいか、また、自白をすすめてよいかといったいわゆる弁護人の真実義務というデリケートな問題があるのですが、この被告人の場合は捜査段階から一貫して無罪を主張していて、私はその主張に不合理な点はないと認めて適正な弁護活動をしており、真実発見を妨害するような活動はしていないのですから何ら問題はなかったはずです。
 従って、私が被告人に対して殺意を生じているという結末部分は作品としては面白いかもしれませんが、弁護士としては短絡にすぎると思われ、大変な対応にはなるでしょうが他にやりようはあったと思います。

 この作品でも、国選弁護人について、「弁護の仕方が杜撰だとか粗いという非難がある。全部の人がそうではないにしても、たいていはおざなりの弁護でお茶をにごすものとされていた。」というのが出てきます。
 当時の国選弁護活動には実際問題あるケースが多かったのかもしれませんが、清張さんの国選弁護人やその弁護活動に対する見方、評価は厳しいもののようです。


urushihara_law at 15:15|PermalinkComments(0)松本清張 

2020年09月02日

霧の旗

 強盗殺人罪で逮捕、起訴された被告人について、その無実を信じる被告人の妹(桐子)からの弁護の依頼を断った刑事弁護の著名な弁護士(大塚弁護士)が、後にその妹に復讐され破滅に追い込まれるというストーリーです(昭和34年)。
 何度もテレビドラマ化されているようで、かつて田村高廣さんが大塚弁護士役で出ていたのを見て怖い話だと記憶に残っていました。ネットで調べてみると1991年のオンエアだったので、弁護士登録1年目の新人の時に見ていたことになります。

 あらためて作品を読んでみますと、失礼ながら、弁護の依頼を断ったことと復讐、破滅との結末がかなり無理な筋立てではないかと思いました。
 桐子が兄の獄死後上京し、その後、女給(この表現は時代を感じさせます)として働いていたバーでの雑誌記者との再会、後に殺害されるレストランのボーイ頭との出会い、殺害現場への立会いとそこでの大塚の愛人との鉢合わせ、その愛人が兄と同じような刑事被告人の立場に立たされてしまうこと等が小説としてもあまりに偶然に過ぎると思われるのです。
この点、文芸評論家の斎藤美奈子さんが、文庫解説ワンダーランド(岩波新書)という本で、そもそも松本清張作品は、トリックは無理筋だし、動機は憶測にすぎないし、などと批判的な指摘をしているのですが、なるほどここはその通りではないかと思った次第です。

 大塚弁護士の刑事弁護活動としては、ライター提出にこだわり過ぎたのではないかと思います。真犯人の目星はついたと言っているのですから、これを検事か裁判所に丁寧に上申すればライターがなくても何とかできたのではないかと思われます。
なお、桐子の兄を担当した国選弁護人は、無罪の弁護をせずに、情状酌量だけを懇請したとあるのですが、そのような弁護士はいないと思いますし、もしいたとすると相当問題ある弁護士だと思います。国選弁護人であっても被告人の主張に基づいて最善の弁護活動をするはずです。

 大塚弁護士は52歳の設定になっています。
 ドラマと原作は違うことやドラマを見た当時は自分が弁護士1年目で52歳の弁護士は大先輩であったのに対し、今では、年を重ねて52歳がはるか下になったことからこのようにやや批判的な感想、コメントになったのかもしれません。





urushihara_law at 17:17|PermalinkComments(0)松本清張